259号の当選番号は 023 027 086 156 188 です。

兎を追うもの


「虻蜂取らず」ということわざがあります。
「あれもこれもとねらって、結局どれも得られないこと」という意味なのですが、べつにアブもハチも欲しくないじゃんと思うのは私だけでしょうか?
 
そんな話はさておいて、先月後半に作った「レモンとアールグレイのパフェ」は大変でした。
レモンと紅茶のパフェよりも、なんとなく語感がいいのでアールグレイにしたのですが、その分選択肢が狭まってしまったのが最初の難関。
アールグレイはベルガモットという柑橘類の香りを移した紅茶なので、そもそも柑橘類とは相性がいいのですが、その分レモンとの組み合わせでは香りに膨らみがなかったのです。
そして第二の難関にして最難関だったのが色。
最初レモンシャーベット&アールグレイの紅茶アイス&紅茶のムース&紅茶ゼリーの組み合わせで考えていたのですが、さすがに色が地味。
そこで黄色いレモンカードを作ってみたのです。
これで卵黄のコクとバターの香りも加わり、味的には十分美味しくなったのですが、茶色と白に黄色が少々という、まるで男子高校生が作ったワンパク弁当のごとく彩りに欠ける仕上がりになってしまったのです。
そこで私は考えた。
海より深く考えた。
そしてマントルに到達する寸前にやっと思いついたのです。
紅茶にこだわらず抹茶を使っちゃえ、と。
抹茶は柑橘系と相性がいいですから、レモンと一緒に使っても問題ないうえに、鮮やかな緑がいいアクセントになります。
そこにブラッドオレンジの赤を加え、カシスの紫とアンズの黄色をアクセントにして、何とも彩り豊かで美味しいパフェが出来上がったのです。
 
ところで、先ほどは男子高校生に限定しましたが、高校生に限らず男は茶色い飯が好き。
会社員時代、毎週月曜日に五・六人の後輩たちが私の部屋に集まって夕食会を開く習慣がありました。
八畳間にひしめく男ども。
想像するだにむさくるしいのですが、酒が飲めない私にとっては仲間と過ごす楽しい時間。
そんなわけで毎週様々な料理を作っていたのですが、彼らが喜ぶのは決まって茶色い飯。
手間暇かけた彩り良いイタリアンより、仕込み時間がなくて適当に作った唐揚げのほうがウケるのです。
ならば揚げ物ばかり作っておけばいいじゃないかとも思ったのですが、それじゃ理系魂が納得しません。
料理はやっぱり様々な食材や調味料を組み合わせて化学反応を楽しむもの。ならばとハマったのが煮込み系。
同じ素材で作るにしても、水で煮込むかビールで煮込むかワインで煮込むかでまったくの別物になるのです。
そんなわけでもっともよく作ったのがビーフシチュー。
牛肉の部位やハーブの使い分けで様々な味わいを産む奥深い料理。
食事会で何十回も作ったものです。
そして、その集大成といえるのが、ランチに使っているハヤシライス。
肩ロースの塊肉をワインと醤油で煮込むところから始まるソースはハヤシソースというよりビーフシチュー。
トマトを多く使うことで、何とかハヤシっぽく仕上げましたが、世間一般のハヤシライスとはちょいと違うオリジナルのハヤシです。
自信満々でランチに組み込んだわけですが、思ったほど注文が伸びません。
原因はたぶん茶色い飯だから。。。
男が大好きな茶色い飯は、おなごにとっては色味に欠ける地味な奴。
カレーほどメジャーでないハヤシライスにあえて挑戦しようという方は少なかったのです。
そこで生まれたのが「焼きハヤシ」。
チーズや玉子で地味さを払拭するところから始まって、ブロッコリーやトマトの彩りまでバリエーションに加えたところ、これ目当てに遠方からのお客さんもやってくるほどの人気メニューになったのです。
多治見の梁山泊とも呼ばれたむさくるしい部屋から生まれた絶品ランチ。
ぜひ一度お試しいただきたい!
 
そして再び「レモンとアールグレイのパフェ」。
何とか彩り豊かで美味しいパフェに仕上がり、リピーターが続出するほどの大好評でした。
しかし、彩り豊かになった分パーツが増えたので仕込みが大変。
しかも、レモンとブラッドオレンジとカシスと紅茶の四種類のゼリーを全部違う食感にするという、細かすぎて誰も気が付かない所にまでこだわり。
さらに、飾りのレモンコンフィはいつものような半円に切らずに使ったので、作る量はいつもの倍。
そんなこんなで仕込みが追い付かず、一週目の日曜日には、おやつタイムどころかランチタイムすら終わっていない二時前にオーダーをストップする羽目になってしまったのです。
いいパフェができても食べられない人がいては本末転倒かとも思いましたが、今できる最高のものを作らないのは失礼というもの。
ならばもっと夜遅くまで働けばいいじゃないという声も聞こえたような気がしますが、精神年齢は低くとも体はそろそろ赤いちゃんちゃんこを必要とするおトシゴロ。
残り時間は限られているのに、眠る時間は欲しいですし、本も読みたいですし、次の世代に勉強だって教えたい。
アブも欲しけりゃハチも欲しいし、二兎も欲しけりゃ三兎も欲しいのです。
二兎を追うだけでは一兎も得られないかもしれませんが、三十兎くらい追えば三兎くらいは捕まえられるかもしれません。
いろんなものを追いかけますが、パフェの美味しさだけは妥協しませんので、オーダーストップに出くわしたとしても、あきらめずにもう一度チャレンジしていただきたい!





KURIKURI